1. 赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。文庫化
  2. むかしむかしあるところに、死体がありました。
  3. むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。

むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。 【試し読み】

真相・猿蟹合戦 見出し画像

【狸の茶太郎が人間の長兵衛から聞いた話】

この立林の里から五里ばかり山ん中を行くと、赤尻平ちゅう開けた場所があるらしい。山道があるわけでもなし、人間はまったく足を踏み入れんそこでは、動物たちがのびのびと暮らしておるんだと。

これは今から十年前、その赤尻平で起きたことだそうな。

そこに一匹の蟹が住んどった。蟹はある日、道でにぎり飯を拾った。さっそく食べようとしたところ、「おい蟹どん」と声をかけてくる者があった。

南天丸ちゅう名の、乱暴者でいたずら好きな猿だった。南天丸は言うた。

「おらにそのにぎり飯をくれんか。代わりにこの柿の種をやろう。考えてもみい。にぎり飯は食ってしまえばそれで終わりじゃが、柿の種はいずれ育って木になり、うまい実を毎年実らせる。長い目で見れば柿の種のほうが得じゃ」

言いくるめられた蟹はにぎり飯と交換した柿の種を植え、水をやり肥料をやり、一生懸命世話をしたんだと。やがて秋がきて成長した柿の木に実がたわわに実った。ところが蟹は木登りができん。そこへまたあの南天丸が現れた。

「そういうことならわしが取ってやる」

南天丸はすいすいと木に登っていき、蟹には見向きもせずに熟した柿を取っては次から次へとむしゃむしゃ食べた。蟹はそれが面白くない。

「おうい南天丸どん。私が育てた柿だで、私にも取ってくれ」

南天丸は怒った。

「うるさい。そんなに柿が欲しけりゃ、こいつでもくらえ」

まだ青くて固い柿の実を、南天丸は蟹めがけて投げ付けたんだと。柿が命中して甲羅が割れた蟹は、そのまま死んでしもうた。

さて、この蟹には昔ながらの友がおったそうな。栗、蜂、臼、そして牛の糞。友達の命を奪った南天丸に対して怒り狂った彼らは復讐を誓い、いちばん頭の良い牛の糞が南天丸をこらしめる計画を立てたんだと。

南天丸には栃丸ちゅう息子がおったが、その栃丸が隣の山にまつたけを採りに行っているあいだに、計画は実行された。南天丸が少し留守にしておるあいだに、蟹の友らは家の中に入った。栗は囲炉裏の灰の中に、蜂は台所の水甕の中に、牛の糞は出入り口のそばに、そして臼は玄関の庇の上に隠れたんだと。

やがて南天丸が帰ってきた。寒い日のことだったで、すぐに囲炉裏に火をおこした。すると隠れておった栗がぱちんとはじけ、南天丸の顔に直撃した。熱くてたまらん南天丸は水でそれを冷やそうと水甕の蓋を開けた。すると蜂が出てきて南天丸の手の指に針を突き立てた。

南天丸の家のそばには万病に効く薬草が生えとった。南天丸はそれを採ろうと出入り口から飛び出したが、そこには牛の糞が座っていたんだな。牛の糞に足を滑らせてすってんころりん。仰向けに転んだ南天丸めがけ、庇の上からどすーんと臼が落ちてきた。

ぐきりと嫌な音がして、臼の下から血がにじみ出てきた。

臼がその重い尻をあげると、南天丸はもう白目をむき、舌をだらりとさせて動かなくなっておった。まるで自分が殺した蟹のように潰されて、死んでしもうたんだ。

……よいな茶太郎。悪さをすると必ず自分に戻ってくるんだぞ。他の者には優しくすべきなんだ。これは人間でも動物でも変わらんのだぞ。

一、

茶太郎は、立林の毛林寺というお寺の縁の下に住まわせてもらっている。長兵衛さんは一緒に住んでいいと言うが、狸なんかが人間の家に上がり込んじゃ悪いだろう遠慮していた。茶太郎なりの礼儀の気持ちからだった。

そんな茶太郎のもとを一匹の猿が訪ねてきたのは、今朝のことだ。

「おれ、赤尻平からきた栃丸って猿だ」

長兵衛さんから聞いた『猿蟹合戦』で殺された南天丸という猿の息子……ただの昔話だと思っていたのに、栃丸や赤尻平が実在することにまず驚いた。だが、本当の驚きはそのあとだった。

「おめえ、うさぎに兄貴を殺された茶太郎だろ。そのうさぎ、おれが殺してやるべ」

そして栃丸は茶太郎に、自らの計画を話したのだった。初めは唖然として聞いていた茶太郎だが、次第に栃丸の話に引き込まれていった。

「どうだ、おれの計画に乗るか」

「あ、ああ……」

自信に満ちたその顔に引っ張られるように茶太郎が言うと、

「じゃ、今からちょっくらついてきてくれるか」

「どこへ」

「赤尻平だべ」

今日は長兵衛さんの見世物は休みだ。茶太郎は縁の下を抜け出し、栃丸とともに山の中を五里ばかり進んだ。こんなところに集落などあるものかというほどの藪の中を歩いてきたため、突然目の前に人間が作ったと見まごうほどの家々や畑が現れたときには、夢を見ているんじゃないかと思ったほどだった。

「ここからは猿に化けて、人間みてえに二本足で歩いてくれっか?」

いよいよ赤尻平に入るというときになって、栃丸は言った。

「どうしてさ?」

「猿と狸が仲良う歩いているとおかしいと思うやつがいるべ。赤尻平の猿は二本足で歩くから、怪しまれねえように」

茶太郎は言われるままに猿に化け、栃丸のあとをついていく。

猿蟹合戦で殺された猿の息子・栃丸が企てている計画とは? 
狸の茶太郎はどのように協力するのか? 
続きは本書でお楽しみください!

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