どれ、今日はみんなに、わしの知っとる「おむすびころりん」の話をしようかの。
むかしむかし、惣七という名の、それはそれは欲の深いじいさんがおったんじゃ。惣七じいさんはとにかく怠け者での、三日にいっぺん働けばいいほうじゃった。それでいて「どこからか金銀財宝でも降ってこないかのう」と、あらぬ夢ばかり見ておった。
ある日の朝、いつものように惣七じいさんは、働きもせず囲炉裏のそばでごろごろしておった。すると、
「大変じゃ、じいさん、大変じゃ」
外で畑仕事をしておったはずのばあさんが、戸を開けて転がり込んできたんじゃ。
「なんじゃばあさん、騒がしいのう」
「とと、となりの米八さんのい、い、家に……」
ばあさんに外に連れ出された惣七じいさんは、米八じいさんの家の戸口の隙間から中を覗き、腰を抜かしてしもうた。土間がまばゆいばかりに輝いておる。見たこともないほどの金銀財宝が積んであるのじゃった。
「やい米八」
惣七じいさんは戸を開け、問いつめたんじゃ。
「お前、どうしたんじゃ、このお宝は」
「おお、惣七じいさん。嬉しいことじゃ。ねずみっこどもにこんな袋をもらったのよ」
「袋じゃと?」
「昨日のことじゃ。わしはいつものように、東のお山に木を伐りにいった。昼になって腹が減ってきたんで、めしにすべえと岩に腰かけ、おむすびを食おうとしたが、うっかり手を滑らせて落としてしまったんじゃ。おむすびは茂みの向こうにあった坂をころころと転がって、その下にある穴にすっぽり入ってしもうた。なにしろうちのばあさんのおむすびは、ふっくら炊けとってうまいからのう。ありゃあ、もったいないわいと、わしは坂の下の穴を眺めとった。そうしたら穴から、なにやら、妙ちきりんな唄が聞こえてきおったんじゃ」
おむすびころりん すっちょんちょん
おてんとさまの ごほうびか
おむすびうれしや きっちょんちょん
おれいにおどろや もちおどり
「その唄があまりに面白かったもんでな、わしはもう一つ、穴にめがけておむすびを転がしたんじゃ。そうしたらどうじゃ、また聞こえてくるんじゃ。それで、三つ持っていたおむすびをみーんな、穴に転がしてしまったんじゃ」
「何をしとるんじゃ、ばかばかしい」
「それでもまだ唄が聞きたかったんで、今度はわしが自分の膝を抱えておむすびのようになり、ごろごろと坂を転がっていったんじゃよ」
「ばかにもほどがあるわい。なんでおまえがおむすびの代わりになるんじゃ」
「まあ聞け、惣七じいさん。はっと気づいたら、わしは洞窟のようなところにおった。そこらじゅうに提灯がぶら下がっとって、明るいんじゃ。わしを囲んで驚いたような顔をしとったのは、ねずみっこたちじゃった。一匹の、年老いた茶色いねずみがわしの前に出てきて訊ねるんじゃ。『ひょっとして、さっきからおむすびをおらが穴に放り込んでくれていたのは、あんた様ですかいな』とな。そうじゃとわしが答えると、ねずみたちは大喜びでな。隣にいた良之助ちゅう灰色のねずみが、『うれしいからお礼に餅をつきましょう』と言い出して、わしを広間に連れていくんじゃ。ねずみたちは、どこかから臼と杵を持ち出してきて、餅をつきはじめた。それでな、また唄を歌うんじゃ」
おむすびころりん すっちょんちょん
おまけにころげて じいさんも
おむすびうれしや ぺっちょんちょん
おれいにつこうや うまいもち
「わしゃ、楽しくなって、唄に合わせて踊りはじめた。そうしたら、ねずみたちも一緒になって踊り、餅を食ったり、酒を飲んだり。そんなふうに楽しんでいるうちにすっかり時間が経ってしまっての、おいとますることになったんじゃ。すると、長老のねずみが広間の奥にあった白木の扉を開いて、中からこの袋を取り出した。そいで、『これはおみやげです』ちゅうて、わしにくれたんじゃ」
「そんな汚らしい袋がなんでおみやげなんじゃ」
「それがな、『なんでも望みのものが手に入る袋です』と長老は言うんじゃ。わしは名残おしかったがお別れを言うて、最後はみんなに見送られて、穴から外に押し出してもろうた。それで、家に帰ってきて、ためしに『金銀財宝、出てこい』ちゅうて袋を振ったんじゃ」
「なんと。それで、この金銀が出てきたというのか」
「そうなんじゃ」
惣七じいさんは悔しいやらうらやましいやら。
「おい、米八」
惣七じいさんは金銀財宝をちゃりちゃりと踏みしめながら米八じいさんに迫り、着物の襟をつかんだんじゃ。
「そのねずみの穴は、東のお山のどこにあるんじゃ。詳しゅう、教えんかい」
「や、山道を上っていって、てっぺんに着く前の分かれ道に、か、か、亀の形をした岩があるじゃろう。そのすぐ近くに坂がある。その下じゃ」
苦しがる米八じいさんから場所を聞き出すと、惣七じいさんは、ついてきていたばあさんを振り返った。
「ばあさん、何をしとるんじゃ。早う、おむすびを作らんかい!」