社員インタビュー

文芸出版部

田中沙弥

経歴
2014年入社。第2営業部に配属され、首都圏および東北・北海道エリアの書店販促を担当。2018年に文芸出版部に異動。『腹を割ったら血が出るだけさ』(住野よる著)、『川のほとりに立つ者は』(寺地はるな著)、『好きです、死んでください』(中村あき著)、『定食屋「雑」』(原田ひ香著)、『少女マクベス』(降田天著)などを担当する。

――文芸出版部の仕事について教えてください

 小説を中心とした文芸作品を作っています。自分が面白い!と思った作家さんに執筆を依頼し、原稿を書いていただいてから本にするまでの一連の作業を行います。連載を行う場合は月刊の文芸誌「小説推理」およびWEB文芸配信サイト「COLORFUL」で執筆していただき、最終回を迎えれば単行本・文庫それぞれの形で刊行します。
 双葉社の文芸出版部では一人の編集者が雑誌・単行本・文庫のすべての工程に携わるので、ひとつの作品が生まれる瞬間からお客さんの手元に届くまで、ずっと伴走することができます。作業は多岐にわたり忙しくなりがちですが、一人の作家さんと長くお付き合いができて、何より作品の「一人目の読者」になれる楽しい仕事です。

――ご自身が担当した作品について教えてください

 双葉社からデビューされた住野よるさんの『腹を割ったら血が出るだけさ』は、現実と物語世界が交差していくように編まれた青春群像劇です。本作はおおまかなプロットを事前に共有いただき、アイドルの方々、書店員さん、ライブハウスのスタッフさん方へ取材を行いました。取材をもとに執筆していただく過程でも、作中に登場する彼ら彼女らがどんな行動をとるのか、どんな言葉を放つのか、住野さんと何時間も話し合い改稿を重ねていただき完成した思い出深い作品です。
 また、昨年は原田ひ香さんの『定食屋「雑」』という、年の離れた女性二人が古びた定食屋を切り盛りしていく人情味溢れる物語を担当しました。もともと『ほろよい読書』というお酒をテーマにしたアンソロジーの一編があり、そこから続きを膨らませていった企画です。最初は原稿用紙80枚だった短編が、400枚の長編として育っていくなかで、当初の一編からは想像もしなかった登場人物の活躍や意外な過去などが描かれていき、連載原稿を少しずついただきながら次はどうなるんだろう?と毎回わくわくしました。
 小説の他にエッセイやノンフィクションを作る機会もあり、あまりジャンルに縛られず様々な本を作っていけるのが双葉社文芸出版部のいいところです。

――作家さんと関わる際に、特に気を付けていることはなんですか?

 その作家さんが大切にしていることを、自分も大切にするようにしています。
 作品を作る上で何に重きを置くかは作家さんごとに異なりますが、一人一人違う考え方があり、それぞれが素敵な世界観をもっています。作家さんが作品を作る上で大切にしていることを自分も守りながら、そのうえで、その方の面白さや魅力を最大限、読者さんたちに伝えられるように心がけています。
 また、文芸の仕事では作家さんに書いていただくまで数年待つケースもよくあるので、本作りのお仕事をご一緒する際には、自分のなかで4年に1度のオリンピックのような気持ちとなって盛り上がっています。その時期だから書けること、話せること、表現できることをたくさん詰め込んで、その人と一緒に仕事できる時間を全力で楽しもうと思って過ごしています。

――仕事をする上で大変なことと、必要とされる能力はなんですか?

 周りを見渡してもいろんなタイプの編集者がいるので、「絶対これが必要」という要素はないように感じますが、自分で企画を立てて動き始めていくことが多いため、積極的で好奇心旺盛な人のほうが続けやすいのではないかと思います。人や物事と出会い、その魅力や面白さを世の中に伝えていく仕事なので、話を聞くこと、話を伝えることの両方が好きだとより向いているかもしれません。
 大変だと感じるのは、自分の場合は慢性的な忙しさや睡眠不足の面です。楽しい企画があれば全部やってみたくなってしまうし、凝り出したらきりがありません。仕事と日常のオンオフがつけづらいので不規則な生活になりやすく、また不規則なままでも働ける職種なので、気を付けるとしたら時間と体調の自己管理でしょうか。私自身も健康のためにもっと生活改善しなければと考えています。とはいえきちんと早く帰宅する編集者もいるので、できないというわけではなく、生活を大切にすることも個人の努力次第だと思います。

――どんな学生時代を過ごしましたか?

 学生時代に藤原新也さんの『全東洋街道』を読んで、自分の目で世界を見てみたいと思い、大学を休学してお金を貯め一年近く海外を一人旅しました。30カ国以上を歩き楽しい瞬間もたくさんありましたが、消化しきれない光景のほうが未だに強く記憶されています。

 たとえば旅の途中、中国の大理という街でお金を盗まれました。初めて盗難にあい落ち込んでいたところ、同じ宿に滞在していたおじさんが、「イスラエルのコーヒーを飲む?」と故郷から持ってきた豆を挽いてコーヒーを淹れてくれました。長旅をするうえでバックパックの限られた容量に何を詰め込むかは人それぞれですが、かさばるコーヒー豆をわざわざ中東から持ち運ぶ姿が印象的でした。そのコーヒーを一緒に飲みながら、おじさんはイスラエルから各地を旅してきたなかで、自分が国籍ゆえにこれまでどんな差別を受けたかを明るく話してくれました。そしてわたしに、「怪我もなく家族も元気でいるあなたは、何も失ってない。お金を盗まれたという経験がひとつ増えただけ」と言いました。
 その後わたしは中東に着いたとき、あのコーヒーのおじさんの故郷を訪れてみようと思いました。今から十年以上前の光景ですが、異なる宗教の人々と施設が入り交じるエルサレムの街を歩くと、傍目にはすごく綺麗で、平和な島国で育った自分の知らない空気の質感がありました。
 そこからバスで少し走れば、落書きだらけの背の高い鉄の壁が現れて、その中にはパレスチナの人たちが暮らしています。彼らの自治区内に足を踏み入れると、急に物価は半額になり、わたしの後ろを物売りの小さな男の子がつけてきました。その自治区内をしばらく歩いてから、わたしは壁の外へ出るため軍人が銃を持って見張っているゲートを通過しました。わたしの後ろをつけてきた男の子は、そのゲートの手前で立ち止まるしかない。あのとき男の子がわたしに向けた目を今も覚えています。
 自分はこれまで何も世界のことを知らなかったんだという、恥ずかしさと浅ましさを、身をもって理解するような旅でした。自分が無知で小さな人間だと知ったから、もっと色んな事を知りたいから、今も本を読んでいるのだと思います。

――双葉社はどんな会社ですか?

 「縛り」が少ない会社だと思います。特に編集部は一人の一人の裁量が大きく、こうしなきゃいけないという決まりがほとんどないので、若手でも新しい挑戦ができます。私が恐る恐る「これをやってみたいんですが…」と提案するといつも上司や先輩たちが、やってみなよ!と背中を押してくれます。そのぶん個人が頑張るべき部分もたくさんありますが、自分で始めた企画の結果を自身で見られることは楽しさのひとつです。
 また社員一人一人の顔と名前が一致する規模の会社なので、営業部をはじめとする各業務部とのやりとりがスムーズで、部署を超えて社員同士の仲の良い会社だと思います。
 入社時は営業部に配属されたので、営業・編集のどちらも経験してそれぞれの部署の良さを実感しています。他部署とチームになって力を合わせることと、個人で考えて動ける自由さ、その両方を兼ね備えた会社です。

――未来の新入社員に一言お願いします

 学生時代の頃は、ちゃんと世に出て働けるんだろうか…と不安でしたが、気付いたら会社の一員として十年も働いていました。編集者という仕事が楽しくて、双葉社という会社がしんどくない環境だから続けてこられたのだと思います。毎日決まった時間に学校へ通うほうが自分にとってはずっと大変でした。
 双葉社が会社である以上、一人一人が利益を出す働きをするのはもちろんのことですが、単にお金を稼ぐということにとどまらず、自分の机に座って作業をしていると、なんだか放課後の部室で自分の趣味にひっそり没頭しているような懐かしい気持ちになることがあります。いろんなものを作る、たくさん売る、世の中に会社として貢献する、というのは前提としたうえで、それだけに収まらない楽しみがここにはあると思います。

社員インタビュー

営業局

書店、取次への営業、製作、在庫管理、宣伝などがメイン。編集部とも連携しつつ「売る」仕事です。

ライツ事業局

映像化、グッズ開発、海外事業など作品をより広めるため、ライセンスに関わる仕事をしています。

コンテンツ事業局

電子版のコミックス・書籍・雑誌の編集、製作、販売、プロモーションを幅広く行っています。