
日本を舞台にした『キル・ビルVol.1』は、痛快バイオレンス・アクションだ。何しろ、QTが前作『ジャッキー・ブラウン』から6年もの空白期間が空いてしまったから、その間にQTが観まくったありとあらゆるジャンル映画──日本のチャンバラ時代劇、実録ヤクザ映画から、香港のカンフー映画、香港のノワール映画、はてはイタリアのホラー(ジャーロ)まで、その映画的要素をごちゃ混ぜにした痛快アクション巨編に仕上がっている。
本作の冒頭には、日本の深作欣二監督への献辞がある(日本公開バージョンのみ)。そこからイタリアテーストだったり、香港テーストだったり、日本テーストだったりと各国の香りを過剰にミックスさせ、もう空いた口が塞がらない、という表現が妥当な、疾風怒濤のアクションを展開させている。クライマックスの日本の料亭・青葉屋における主人公ザ・ブライド(ユマ・サーマン)のド派手な立ち回りまで、一気呵成に見せきるのだから、QTの娯楽映画精神はアッパレとしかいえない。
ヒロインのザ・ブライドは、『キル・ビルVol.1』の代名詞的存在にすらなっている、ブルース・リーの遺作『死亡遊戯』でブルースが着た黄×黒のトラックスーツ姿だった。おまけに、彼女が履いていた
オニツカタイガーのスニーカーも黄×黒で、絶妙なコンビネーションだった。
対するブラックマスク集団の「クレイジー88」が、これまたブルース・リーが『グリーン・ホーネット』のカトー役で演じたカトー(ケイトー)マスクと運転手の制服姿で登場しているのが、おもしろい。この戦いの図式はいわば「ブルース・リー対ブルース・リー」であり、この戦いには、ご丁寧にも『グリーン・ホーネット』の音楽がかぶさるという過剰さ。もはや笑いが止まらないのである。
そしてラストは、ザ・ブライドと宿敵・オーレン石井(ルーシー・リュー)による日本刀での決闘。それが、梶芽衣子主演の東映映画『修羅雪姫』の様式美をそっくりそのまま真似た雪の庭園での戦いへとなだれ込むという荒唐無稽さ。その美しいシーンに、至極日本的な、昭和歌謡曲のような梶芽衣子が歌う『修羅雪姫』主題歌「修羅の花」が流れるおかしさに笑うしかないのである。
この過剰さこそが、娯楽映画精神の限りをつくしたQT映画の真骨頂である。「これでもかこれでもか」と映画的な愉しさを詰め込むQTのストーリーテリングには、いつもながら平伏するしかないのである。