著者からのメッセージ

この小説は、温泉街で暮らす高校生たちの話です。ぬるま湯に浸かっているみたいに、特に大きな事件もなく、将来への明確な夢もなく、かれらの日常はのんびりと過ぎていきます。私自身、高校生のころなどに「いまが一番いい時期よ」と大人からしばしば言われましたが、まったくピンと来なかったし、いま思い返しても「若い=夢や希望にあふれている=いい時期」だったとはちっとも思えません。ただ退屈で、さきが見えなくてちょっと不安で、でも友だちとおしゃべりしているのが楽しかったという感じです。事件や夢がなくても日常は営まれるよな、という思いをこめて書きました。そんな日常をおバカなノリで、けれど一生懸命に生きる登場人物たちを、応援していただければうれしいです。

――三浦しをん

海と山に囲まれた餅湯温泉。団体旅行客で賑わっていたかつての面影はとうにない。のどかでさびれた温泉街に暮らす高校生の怜は、複雑な家庭の事情や、進路の選択、自由奔放な仲間たちに振り回されながら、悩み多き日々を送っていた。今日も学校の屋上で同級生4人と仲良く弁当を食べていたら、地元の「餅湯博物館」から縄文式土器が盗まれたとのニュースが入り…

餅湯商店街

主人公・怜の家が営む「お土産 ほづみ」を始め、丸山家の「喫茶 ぱらいそ」、竜人の家の「佐藤干物店」などが軒を連ねる商店街。「もっちもっち、もちゆ~♪ もちゆおーんせーん~」という間の抜けたテーマソングが流れる。

夫婦岩

餅湯町の数少ない観光スポットのひとつ。春夏は、夫婦岩を望む海岸沿いは恋人たちの逢引の場となり、カップルが等間隔に並ぶ。

餅湯城(餅湯博物館)

餅湯町のシンボル的存在であるコンクリート製の「ニセ城」。中にはさびれた博物館が。何者かにより、ここから縄文式土器が盗まれる!?

桜台の家

怜のもうひとつの家。

餅湯神社

餅湯神社の大祭は「暴れ祭り」とも呼ばれる。餅湯町と、隣の元湯町を代表して二つの神輿が町内を練り歩き、最後には神輿を海に放り込むという、のどかな温泉街にふさわしからぬお祭り

餅湯高校

怜たちが通う高校。餅湯町と、隣町・元湯町の間にあり、生徒たちは微妙な町同士の「対立」の影響を受けながらも、友情や恋愛に忙しい日々を送る。

三浦しをん

1976年、東京生まれ。2000年、書き下ろし長編小説『格闘する者に○』でデビュー。 2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、2012年『舟を編む』で本屋大賞、2015年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞を受賞。ほかの小説に『風が強く吹いている』『きみはポラリス』『仏果を得ず』『神去なあなあ日常』『天国旅行』『木暮荘物語』『政と源』など、エッセイに『あやつられ文楽鑑賞』『悶絶スパイラル』『ふむふむおしえて、お仕事!』『本屋さんで待ちあわせ』など、多数の著書がある。

「エレジーは流れない」 三浦しをん

定価:1650円(税込)
978-4-575-24397-0
双葉社