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2009年本屋大賞

担当編集者から
 小説推理新人賞の授賞式の日、その作品から、眉間に縦皺が刻まれているような神経質な女性を想像していたわたしは、「わたうさちゃん」のようなほわんとした可愛らしい笑顔の湊さんに、正直戸惑いました。初対面から話は弾み、その頃、すっかり「聖職者」の世界に取り込まれていたわたしは、つい「犯人のAくんみたいな子供って、どういう両親に育てられると、ああなっちゃうの?」とか「結局、いま悠子先生は、どこにいるの?」と、リアルな人の消息を尋ねるように聞いてしまいました。
 すると、湊さんは「Aくんのお母さんは、すっごく優秀な科学者だったんだけどね、Aくんが子供の頃に出ていっちゃったの」とか、「Bくんのママは息子を溺愛しているバカ親なんです」などと、見てきたようにあっさり答えるのです。
 わたしは「聖職者」を読んで、知りたいことがたくさんありました。Aくんのこと、Bくんのこと、悠子先生が去ったあとのクラスのこと。小説として読みたいというより、純粋に、彼らの生い立ちと、その後を知りたかった。
 それに応えるように、湊さんは、次から次へとそれらをモチーフに作品を書いてくれました。しかも「自分がBくんそのものになっちゃったから、一刻も早くパソコンに向かって告白しないと、アタマがパンクしちゃいそうで大変でした」と、これまたおっとり微笑むのです。
 虚構の世界に入り込める人、かといって視野狭窄ではなく、俯瞰で作品を眺めることができる人。ああ、わたしはすごい書き手に出会っちゃったんだと、第六章まで通して読んだとき、初めてそう思いました。
 決して読者に親切な書き方はしていません。書き飛ばしているのかと思いきや、それ自体が伏線になっていて、まるでこちらの読む能力を試されているような気にもなりました。
 久々に、想像力を最大限に駆使して読み解く快楽を体験できたような気がします。
 この物語は、愉快なお話ではないけれど、読後感は爽快でした。だって、これ以外の決着の付け方は、他にないと思いませんか?
担当編集者 平野優佳
→本屋大賞ホームページ